大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成3年(ヨ)2997号 決定

債権者

仲地滝信

債務者

大軽タクシー労働組合

右代表者執行委員長

辻村勝

右代理人弁護士

小林保夫

松尾直嗣

村松昭夫

城塚健之

杉本吉史

主文

一  本件申立てをいずれも却下する。

二  申立費用は債権者の負担とする。

理由

第一申立ての趣旨

一  債務者の債権者に対する書記長の権利停止処分(会社との窓口業務の停止)の効力を仮に停止する。

二1  (主位的)

債権者が全国自動車交通労働組合大阪地方連合会(以下「地連」という。)の執行委員及び大阪労働金庫東大阪支店(以下「労金」という。)の地区委員であることを仮に定める。

2  (予備的)

(一) 債務者はその発行にかかる執行委員会報告により、債権者の地連執行委員としての肩書を外した等と宣伝し、あるいは後任の地連執行委員を選任するなどの方法により、債権者の地連執行委員としての職務を妨害してはならない。

(二) 債務者はその発行する執行委員会報告に労金地区委員の肩書を外した等と宣伝し、あるいは労金に債権者が地区委員ではなくなったという内容を有する文書を送付する等の方法により、債権者が労金地区委員としてする職務を妨害してはならない。

三  申立費用は債務者の負担とする。

第二事案の概要

一  債権者は、債務者(申立外オーケータクシー株式会社(以下「会社」という。)従業員等で構成される労働組合)の組合員でかつ書記長職にある(平成三年二月二六日債務者の定期大会で選出された。)が、債務者の執行委員会が、〈1〉平成三年七月一八日に会社との窓口業務を行う者を債権者から井上義雄書記次長に変更する旨八対二の多数決により決定し、〈2〉同年八月二二日に債務者の上部団体である地連の執行委員及び労金の地区委員の各資格を債権者から剥奪する旨右同様の多数決で決定した(これら両決定による措置を、以下「本件処分」という。)。(以上、当事者間に争いがない。なお、右「窓口業務」について、債務者は、執行委員会の確認事項等を会社側の窓口に伝える連絡係としての仕事であると主張し、債権者はこれに加えて、会社に対する根回し的な役割も含むと主張し、両者の認識に齟齬がある。しかし、債権者の本件申立ては、まさに債務者が行った「窓口業務」の変更の処分を争うものであり、債務者主張の基本的業務が行えないことによって、結局債権者が加えて主張する根回し的役割も行えない関係にあるから、本決定において、「窓口業務」は債務者の右主張の意味で用いることとする。)

しかしながら、債権者は、右〈1〉の窓口業務は書記長固有の業務であり、右〈2〉の資格はいずれも書記長職に当然伴うものであって、本件処分は、債権者による債務者と会社の不正行為解明を阻止するために行われた無効なものであるとして、債務者に対して右〈1〉の決定による処分の効力の停止等を求めている事案である。

二  争点

1  本件処分の適否は、そもそも司法審査の対象となるか。

2  本件処分は有効か(債権者が主張する会社との窓口業務は書記長の固有業務といえるか。地連の執行委員等の資格はいずれも書記長職に当然伴うものであるといえるか。本件処分は相当といえるか。)。

第三争点に対する判断

一  本件処分の適否と司法審査

債権者は、本件処分は、いずれも組合員の投票で選出される書記長の職務の制限であり、執行委員会の決定によって行われ得るものではなく、また、本件処分は、相当な理由もなく専ら債務者と会社の不正行為を解明しようとする債権者の取組みに対する意図的な妨害で行われたことから、無効であると主張する。

債権者の右主張によれば、本件処分は組合員としての権利行使を直接妨げるものではないが、組合の要職である書記長という地位に基づく権限を不当に制限するものであるということになる。この点において、本件処分が、自律的法規範を有する団体である労働組合の内部規律の問題としてその自治的措置にすべてゆだねられる事柄であると割り切ることはできない。したがって、本件処分の適否が、司法審査の対象にならないとはいえない。

二  本件処分の有効性

1  疎明資料及び審尋の全趣旨によれば、次の事実が一応認められる。

(一) 窓口業務は書記長固有の業務ではなく、執行委員会における内部的事務分担の問題である。また、地連の執行委員及び労金の地区委員は、書記長職と不可分の資格ではない。

(二) 債権者は、書記長就任以来、債務者と会社が一体となって社会保険料等で不正行為を行っていることを、自ら中心になって解明するということで、執行委員会の意思決定を無視して、独自に執行部多数派に対する批判的活動を続けている。

(三) 右(二)のような状況の下で、対外的に債務者を代表する立場で行動する必要がある会社との窓口業務並びに地連の執行委員及び労金の地区委員の各活動を債権者に行わせることは、執行委員会の活動ひいては組合全体の活動に支障が生じることとなった。

(四) 右(三)を背景とし、「債権者が会社に対して口羽労務担当次長の個人口座の閲覧を要求したことが組合と会社との信義に反する行為であること」等を直接的理由として、本件処分が行われるに至った。その決定に当たっては、いずれも債権者を含む執行委員一一名全員が出席し債権者の弁解の機会が与えられた上、八対二(議長である執行委員長は採決に加わらなかった。)の多数決によって決められた。

(五) 平成三年一一月一五日及び一六日に地連の定期大会が開かれ、新たな地連執行委員が選任されたが、債権者は選任されなかった。また、同年一〇月二三日開催の労金の東地区全体集会において、債務者からは地区委員が選出されないことが決定された。

2  右(一)ないし(四)の事実によれば、本件処分については、相当な処分事由が存在し、その処分手続においても問題はなく、本件処分が選択されたのも労働組合の民主的運営の観点からみて、債務者の執行委員会としては無理からぬことであったということができる。

3  ところで、地連の執行委員及び労金の地区委員を選任するのは、それぞれ、地連及び労金であって、債務者は、これら選任主体に対して、単組として推薦を行うという立場にあるにとどまることは当事者間に争いがない(この事実によれば、申立ての趣旨二1の主位的申立ては、債務者が右各委員の選任主体であることを前提とするものであるから、そもそも主張自体失当といわざるを得ない。)。

したがって、前記〈2〉の決定は今後債権者を地連執行委員として推薦しない旨の意思決定に過ぎないこととなる。しかし、右決定に基づいて選任主体である地連及び労金に対し債務者が決定内容に従った意思表明等を行うことは、推薦主体である労働組合として是認される行為であるということができる。

さらに、右(五)の事実によれば、もはや債権者は地連執行委員及び労金地区委員の地位にないことになるから、申立ての趣旨二2の予備的申立ても、その主張の前提を欠き、この点からも理由がないことになる。

三  よって、被保全権利についての疎明がないことに帰するので、債権者の申立てはいずれも理由がない。

(裁判官 大門匡)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例